【インタビュー】企業のおけるパワーハラスメント問題を解決に導く社内教育とは?

27 June 2022 09:00

企業におけるコンプライアンス上の問題として、「ハラスメント」ほど全従業員に身近なトピックはありません。今回は職場で起こりうる「パワーハラスメント」に注目して、コモンカラーズ合同会社代表者、リーダーシップコーチのメテ・ヤズジ氏と、レクシスネクシス・ジャパン株式会社リサーチ&コンサルティング部リードリサーチャーの八島心平に、昨今のパワーハラスメント問題を企業はどのように捉えているのか、今後の対策としてどのようなことが求められるのか…などを伺いました。

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パワハラ6類型の知識より重要な事

—— 昨今、企業においてパワーハラスメントはどの様に捉えられていますか?

(八島)レクシスネクシスでは法務・コンプライアンス関係のソリューションとは別に、企業向けにハラスメント研修(後述)などのサービスも実施しており、本日お越し頂いているメテさんも、我々の研修プランの外部講師としてご協力頂いています。さて、私の方で感じているパワハラの傾向…というよりその対策の傾向についてですが、いくつもの企業様を見てきて思ったことですが、一言にまとめると、「法令の理解とは

別種のものが求められている」ということではないでしょうか。多くの企業様からは、「パワハラの6類型は知識としてもう分かっているが、現実的にはパワハラの問題が一向に無くならない、あるいは内部通報窓口からの相談が絶えない…」というような声を頂いております。

(メテ氏)そういった意味では、実際に私のお客様の反応でも、特に近年のコロナ禍以降、「知識」よりも「コミュニケーション」を推進するような研修のご相談が増えていますね。まさに八島さんが感じている通りだと思いますが、パワーハラスメント研修でも座学よりは、体験型の研修(ディスカッションがあるようなもの)が好まれていると思います。

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コモンカラーズ合同会社代表者、リーダーシップコーチ メテ・ヤズジ氏

トルコ生まれ。1995年から日本在住。国際コーチ連目(ICF)認定資格プロフェッショナルト・サーティファイド・コーチ(PCC)。BoğaziçiUniversity(トルコ)電子工学士号取得。国際大学(日本)経営学修士(MBA)課程修了。California Southern University心理学修士課程修了、2023年に心理学博士号取得予定。保険、金融情報、法律情報サービスの外資系企業にて主にソフト開発、ウェブサービスのアナリスト、プロジェクトマネージャー経験後に、2012年からLexisNexis Japan製品開発本部長取締役を勤め、2018年に独立。

—— パワーハラスメントの知識だけでは現実の問題に対抗できない…?

(八島)そうですね。実際のところ、多くの企業様では、すでに座学形式のパワーハラスメント研修などを定期的に行っていると思いますので、知識としては十分なんですよね。私が聞いたお客様の話では、「ある特定の従業員はe-ラーニングで毎回満点を取るが、実際には「その従業員が日常的にパワハラを行っている」という内部通報がある」ということがありました。

(メテ氏)そういったケースはよくあることだと思います。少し話は逸れますが、リーダーシップの行動テストなどをすると、通常時の行動については問題無い(共感力や傾聴など、リーダーに必要なものは備わっている)が、プレッシャーなどのストレスを抱えた時に、感情的になってリーダーシップが取れなくなり、通常時とは逆の行動である「フリップ動作」(※)を取ってしまうことがあります。このようなケースを考えると、行動テストのみでその人の性質を評価するのは難しいので、有事の際に自分の感情をコントロールできるような、自分を俯瞰できるような準備、つまりトレーニングを積んでおくことが求められます。

パワハラも同様だと思います。基本的にはコミュニケーションの過程で発生する問題だと思いますので、eラーニングなどの座学だけでそれをカバーするのは難しいですよね。私の実施しているパワーハラスメント研修では、「そもそもハラスメントはなくならない」ということを前提として、いかにコミュニケーション能力を向上させていくかを主題としています。「これをしてはいけません」というようなリーガル・ベースの研修とは少し違ったアプローチとなるかもしれませんが、パワハラ問題の解決能力を定着させるには、「コミュニケーション」がポイントだと考えています。

(※)組織行動心理学上の特徴的行動として、Dan Harrison博士が提唱。ストレス下で行動バランスを崩し、通常とは逆の行動を取ることを「フリップ動作」と呼ぶ。

例:詳細なマネジメントを好まず部下の自主性を重んじるマネージャーが、プレッシャーにさらされているとき「ひっくり返って(=Flipして)」「スーパーマイクロマネージャー」になるかもしれないこと。このような突然の変更は、チームや組織の他のメンバーにとって大きな混乱を招く。

お互いにはっきりものを言えない文化

—— 方で、何でもかんでもパワーハラスメントとされてしまうケースも問題になっているかと思いますが、そちらについてはいかがでしょうか?

(メテ氏)パワハラを盾にとって弱者が強者として振る舞うというケースは確かによく聞く話ですね。これは、従業員同士、上司部下同士で相談しあう環境の変化や、社内におけるコミュニケーションの変化により、近年目立ってきた構図ですよね。ある意味では、立場的に弱い側にあたる従業員の方が、我慢せずに管理職に立ち向かえる時代になった…と言えるのかもしれませんが、逆に管理職の方は誰にも相談できずに、一人で悩んでしまう傾向にあるんですよね。

管理職の方から聞く話では、「上司としてどう言ったら良いかわからない」「パワハラと言われてしまうかもしれない」と、コミュニケーションそのものを躊躇してしまうケースが多いですね。ここでも根底にあるのは、普段からのコミュニケーションが上手くいっていない、ということだと思います。

(八島)こういった問題について、海外ではどうなのでしょうか?

(メテ氏)日本と海外では少し状況が違うかなと感じています。もちろん海外でもハラスメント問題は深刻ですが、海外の場合はベストプラクティス的に「個人自身ではなく、行動や仕事のアウトプット(質)についてのフィードバック」「恣意的な判断ではなく、成果指標等の規定に基づく冷静な判断」「できる限り事実ベースで結果(アウトカム)を一緒に確認する」といったスタンスがより顕著だと思います。

日本の場合一般的に「お互いにはっきりものを言えない文化」もあると思いますので、従業員は自分の主張を上手く言えず、また管理職はビジネスの流れを背景など含めてしっかり説明できず…というように、それぞれが上手く歩み寄れていない印象です。お互いにリスペクトしながらのコミュニケーションが求められるでしょう。

“コミュニケーション”を主とした継続的な研修を

——レクシスネクシスのリサーチ&コンサルティング部で実施されている、パワーハラスメント研修について、内容を教えてください。

(八島)冒頭で触れた通り、メテさんに外部講師としてご協力頂き、現在は役員/管理職、従業員向けのパワーハラスメント研修をご用意しています。前述の通り、基本的には「パワハラの知識」ではなく、職場における「コミュニケーションの推進」をポイントとしています。具体的には、研修の入り口としてはダイバーシティ(多様性)、次いで心理的安全性の重要性を学び、会社の生産性を上げるために、日々どのような”コミュニケーション”が必要となるか、事例を交えながら、実際に解決方法を考え、受講者の方に議論して頂きます。管理職の立場でも、従業員の立場でも、まずはコミュニケーションのポイントを理解して、柔軟なチームを作ることにフォーカスしましょう…ということですね。

(メテ氏)人事部門の研修と法務部門の研修をハイブリッドしたようなイメージが近いかもしれませんね。受けた後の数時間までは分かった気になっても、すぐに忘れてしまう研修にはしたくないと思い、体験型のプログラムとしています。

私自身、会社員時代に人事(例:ダイバーシティ)や法務(例:ハラスメントの法律)の研修を幾度も受けたことがありますが、なかなか自分の中で吸収することが出来ず、実務に活かすことが出来ませんでした。そのような経験から、私の研修は、普段の仕事の流れに親和性のあるようなストーリーでプログラムしています。普通の会社員にとっては、座学で得る「知識」よりも、「コミュニケーションスキルの向上」の方が、重要だと考えています。ポイントは今までの「習慣」をどう変えるか。

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社リサーチ&コンサルティング部

リードリサーチャー 八島心平

人事労務分野を中心とする企業法務向け書籍の企画編集や、コンプライアンス・ソリューションの企画・開発業務を経て、現職。レクシスネクシスでは階層ごとのコンプライアンス研修、国内/国外でのコンプライアンスサーベイ等を主担当領域としての顧客支援を行う。

—— 役員/管理職向けと、従業員向けのパワーハラスメント研修ではどのような違いがあるのでしょうか?

(八島)これは一例ですが、役員/管理職向けの研修には「指導をハラスメント化させないポイント」という、パワーハラスメント研修における命題を、「どこまでがグレーゾーンか」といった切り口ではなく、心理的安全性や多様性のチャレンジといった観点で取り上げています。従業員向けの研修は「何でもかんでもパワハラ扱いするのではなく、まずは自分の上司に問題提起できるようなコミュニケーションの環境を作りましょう」というテーマで構成されています。

(メテ氏)パワハラをしがちな管理職であったり、内向的な従業員であったり、ハラスメントが起こりがちな悪循環的な環境を変えたいんですよね。良い人間関係というか、良い環境を作り出す為のツールとして、コミュニケーションスキルが重要となってくるわけです。

—— パワーハラスメント研修をより効果的に実施するポイントなどはありますか?

(メテ氏)役員/管理職向けの研修、従業員向けの研修などは、その企業の状況にもよると思いますが、同時進行で進めていくのが良いと思います。ただ、それよりも重要なのは、長期的な計画を立てて、社内教育を継続することですね。

極端な話をすると、ひとつひとつの研修の内容は薄くても良いと思いますが、研修のフォローアップやリマインドは徹底的に行った方が良いということです。研修と研修の間で自分がどのぐらい変わることが出来たか、受講者の成長を図れるような計画を立てることをおすすめしています。単発の研修だけではどうしても内容が浸透していきませんので、学んだことをいかに習慣化できるかを追求することが重要だと思います。注意点としては、研修を行うこと自体が目的化しないように工夫することです。

(八島)自分の会社が現在どのような環境で、ゴールはどのような姿なのか、あらかじめ想定した上で研修…というか、教育計画を立てた方が良いですね。

(メテ氏)そうですね。パワーハラスメント研修単体で考えるより、もう少し大きな目線で計画を立てると良いと思います。まずはリーダー研修から始めて、チームビルディング研修、パワーハラスメント研修…というように。余談ですが、以前別の研修で「どのようなチームを作りたいか」と受講者に質問を投げかけたことがあるのですが、ほとんどのリーダーは自分のチームのビジョンを説明出来ないんですよね。そうすると、チームのメンバーも仕事の目的が不透明になると思いますし、リーダーに対してのリスペクトも薄れていくのではないかと思います。そしてそういった状況がまたパワハラを生んでいく可能性もあると思います。

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現場で求められる俯瞰的な意識

—— パワーハラスメントに対して求められる現場の意識は何ですか?

(八島)現場の方(管理職/従業員)は、まずパワハラをしている/されている…などの状況を俯瞰的に分析することだと思います。ハラスメントを受けている側で考えた場合、パワハラを受けているのにその状況が認識できないと、自分自身を追い込んでいくことになりますし、逆にパワハラを受けていないのに受けていると認識していては、市場における自分の価値を落としていくことにも繋がります。やはり日々のコミュニケーションスキルが求められるところですが、客観的な情報収集と併せて、相手の立場に立つことを意識すると良いでしょう。

役員側の方は、現場を指導する管理職を査定する立場ということで、自分の見ている範囲がパワハラの当事者となりうることをしっかり認識しておくことだと思います。

単純な話ですが、ハラスメントが一般化している現場では人が育ちませんし、また人も集まりません。シンプルに会社のリスクとなりますので、早めの対策が必要となります。

関連情報

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