
諸外国を自社の市場とするグローバル企業にとって、グローバルコンプライアンスすなわち世界規模での社内コンプライアンスを構築することは容易ではありません。なぜなら、自社独自に法務部門を制定し、なおかつ効率的に運営しなければならないからです。しかしながら、グローバルコンプライアンスの構築なくしてグローバル企業が健全に成長することはあり得ないのが厳しい現実です。
レクシスネクシス・ジャパンでは、 ASONE(アズワン) Globalウェビナーシリーズとして「グローバルコンプライアンス~法務機能の在り方をどう考えるか」というテーマのウェビナーを開催しました。
同ウェビナーでは、シャープ株式会社のグローバル法務責任者として活躍されている、会長室法務担当ジェネラルマネージャー、山崎理志氏のインタビューをもとに構成されています。今回は、同ウェビナーの概要について紹介します。
シャープ株式会社の法務部門の人員構成と役割・業務について

1.法務部門の体制
シャープ株式会社では、法務部門におけるチームごとの業務量・業務の幅を適正に調整するために、各事業部への分散型ではなく本社にて一元的な集約型の法務体制を採用しています。
インハウスロイヤーの場合、司法修習を終えてすぐに入社という方には、企業法務だけでなく全般的な弁護士業務の教育も重視していますが、現時点では、弁護士資格の有無に関わらず、「法務の仕事をしたい」という熱意を優先し人材教育や組織の最適化を図ること。これらがシャープ法務部門の基本姿勢です。
さらに、社員が長く活躍できる職場つくりという観点では、多様性の実現のために、テレワーク、サテライトオフィス、育児休暇(性別問わず)なども推進しています。
2.法務能力向上のミッション
シャープ法務部門では、グループ全体の法務能力向上のために「事業・経営のリスクを適切にマネージしつつ、オポチュニティの拡大に貢献すること。事業・経営に携わる者より信頼される戦略的パートナーとして、当社グループのグローバルな持続的成長をサポートすること。」をミッション(任務)としています。
そして、事業・経営に携わる者の良きパートナーであるために、法務としての専門性を大前提とし「常に経営者と同じ視点を持つ」「リスクの分析と組織の意思決定の後押しをする」ことを重要なマインドとして掲げています。
3.具体的な法務業務
●契約審査
シャープグループが締結する契約は法務部門で全件審査を実施し、締結済の契約書は一元的に法務部門で管理しています。全件審査は時間がかかり過ぎるという懸念がありますが、本社での集約型の法務体制をとることで、法務部門の組織に柔軟性を持たせており、業務量の平準化を図ることで解決できます。また、若手の法務部員に権限を持たせ、主体性を促すことで人材育成にも繋がります。
●訴訟・通商
シャープ法務部門では「通商」もカバー範囲としていますが、それは「どこで何を販売して、どこで生産するのが最適か?」という、関税の観点から国際条約等のルールの検討が必要だからです。また、やりとりの中では、各国当局との見解の相違によって紛争に発展してしまうケースもあります。紛争の解決は、法務部門の業務と親和性がありますので、そのような観点から、「通商」も含めて法務部門で業務にあたっています。
●コンプライアンスの推進
シャープ法務部門では現在、法務リスクが高い法分野として「競争法」「贈収賄規制」「個人情報保護」などに注目しています。これらを中心に法務部が主体となってコンプライアンスを推進しています。
●諸問題解決
他社との取引契約でコンプライアンス問題が生じることが多い現状があります。シャープ法務部門では全件審査でさまざまな案件に関わっているので、相当程度のリスクのマネージが可能となります。また、IT部門との連携によって、リスクが顕在化した時のインパクトや顕在化する可能性をシステム的に管理しながら判断するようにしています。
法務機能のグローバル体制をどのように築くか?

北米、欧州、アジア、中国の主要拠点の法務との連携
シャープ法務部門と、主要拠点の法務部門との連携においては、現地の法務部門でマネージしている地域と、本社の法務部門から直接グリップ(関係性を維持)している地域があります。アメリカ、ヨーロッパ等は縦軸(事業体)が中心。つまり現地の法務で完結するものが多い傾向にあり、アジア等は縦軸(事業体)+横軸(機能面)。つまり本社として関与するものが多い傾向にあります。後者については、本社の法務部門との連携がより重要になってきます。
① シャープ株式会社本社の法務部門(集約型法務体制)
② 国内・海外のグループ企業の法務部門(企業によっては分散型の法務体制)
●現地の法務部門がマネージしている拠点
現地と本社の法務担当者が密接に連携し、ダブルレポートライン(分散型の法務体制のグループ企業の担当者は、『所属している企業』『シャープ株式会社の法務部門』への2つのレポートラインを持つことになります。)を設置しています。拠点ごとに本社法務部門の担当者1名をアサインして、業務上の連携・コミュニケーションを図る「リエゾン・プログラム」を機能させています。
●本社から直接グリップしている拠点
シャープ本社法務部門主導により直接ハンズオン(経営関与)で対応しています。
●ダブルレポートラインを機能させるコツとは?
現地の法務部門の担当者からすると「本社」と「現地の会社のトップ」のレポートに食い違いがあると困惑が生じます。これを解決するためには、
① 本社の「トップ」と本社の「法務部門」が一枚岩であること。
② 本社と現地の会社で「どこまで関わりあうのか」のコンセンサスをとること。
③ 本社と現地の担当者の信頼関係を密にすること。
上記の3点の遵守によって、ダブルレポートラインを効果的に機能させることが可能となります。
法務機能を最大化させる為の運用とは?

法務機能の運用面
法務機能を最大化させる為に必要となる運用について、シャープ法務部門で実施されている基本的なオペレーションは以下の3点です。
- 法務担当としての心得を明示し、これを通じて価値観をグローバルに共有
- 定期的にOne-Team Meetingを実施し各期のゴールの設定・明確化
- 社内チャット機能を利用した情報・ノウハウをグローバルに共有
法務部門の心得とグローバルでの価値観を共有することについて
シャープ法務部門の心得は、「経営者から信頼される良きパートナーとして会社の持続的な発展をサポートする」となっており、法務部門がブレイクダウンして具体的に示したものをグループ企業と共有するシステムです。
ダイバーシティという目線
シャープ法務部門は、ダイバーシティ(多様性)を重視する体制を敷いています。外国人社員や拠点の担当者とのやりとりを密にし、日常的なコミュニケーションで相互理解を図り、価値観を共有することを目指しています。
法務部員のゴールの設定・明確化
シャープ法務部門が掲げる、法務部員の目標のベースとなるものは、下記2点です。
- 経営基本方針、経営計画に法務としてどうサポートするか?
- 何を目標にどこまでやるのか? 法務部門に足りない部分はあるか?
ただし、法務の仕事は突発的な案件が多数発生し、実際にそのウェイトが高いという現実があります。ゴールを決めたとしても、優先するべきものがあればゴールを見直すという柔軟な運用方法を採用しています。
各国の法情報についてどう考えるか?

「MLex」による情報収集
シャープ法務部門では、グローバルでの重要法令分野の制定改廃動向のウォッチと並行して、レクシスネクシスが提供するプロダクト「MLex」によって各国当局・重要法令の制定改廃の動向収集を実施しています。「MLex」の活用により、重要案件発生時に適時の進捗がレポートされ大変有益な結果がもたらされています。
●進出国の重要法令の収集方法
シャープ法務部門では、GDPR(EUの一般データ保護規則)からの各国個人情報保護法の法的要求事項や贈収賄規制の情報収集など、次のような方策で進出国の重要法令を収集しています。
① 官公庁のウェブサイト:日本国内に限っては情報が取りやすい。
② 弁護士事務所:事務所ごとに情報の取得見込み箇所を管理。
③ MLexの活用:海外法情報の取得(速報性・利便性)
グループ行動規範のエンドユーザーへの展開・遵法教育
シャープグループにおける行動規範は次のとおりです。
① 行動規範(世界共通)の作成
- 色々な言語を翻訳し、国内・海外のグループ会社に展開。
② 行動規範を守る為の施策
- コンプライアンスガイドブック(英語、中国語に翻訳)を現地でのコンプライアンス教育に活用。
③ トップメッセージの発信(重要!)
- 本社トップが全社に向けてコンプライアンスの重要性を発信する。
現在の注力事項と今後の課題

現在の注力事項
シャープ法務部門での現在の重要な取組みとして「グループガバナンス」と「人材育成」という2点に重点を置いて日々の業務に邁進しています。
M&Aで吸収した会社のガバナンスの醸成
① 相手企業を尊重すること(従業員、会社の状況、メンタリティ、歴史、文化、業種特有の体制など)
② 親会社として”取り組んで欲しいこと”の明言とフォロー
※相手企業のそれぞれの事情に応じたマネジメントを意識してシャープグループのガバナンスの醸成を構築しています。
リーガル・ビジネスマインドを持つ人材育成での思考法と方針
シャープ法務部門では、法務の人材育成について以下の項目に重点を置いています。
- 次の時代の法務のリーダーを育成する
- 欧米企業の法務部門といかに対等に渡り合うこと
- 日本企業の法務部門の能力の向上
グローバルで事業を展開していくにあたり「欧米企業の法務部門といかに対等に渡り合うこと」「日本企業の法務部門の能力の向上」の2点は、シャープ株式会社だけでなく、日本経済の発展の為にも非常に重要と考えています。次の世代の法務部員に、経営不振の時期など過去の経験を伝え、シャープの長い歴史の中でのノウハウを整理し共有することを目標としています。
グローバル企業で活用されるMLex

シャープ株式会社のグローバルコンプライアンス体制と法務機能の在り方は、まだ法務部門が整備されていないグローバル企業にとって、大いに示唆に富んだ内容です。シャープグループでは、グローバルコンプライアンスをより効果的かつ効果的に運用するべく、レクシスネクシス提供プロダクトである「MLex」を活用されています。
MLexは、世界各国の規制リスクの予測分析を可能にした"Actionable News"情報の配信サービスです。レクシスネクシスのMLexには以下のような優れた特徴があります。
MLexの特徴
- グローバルレベルで情報が整理されており、贈収賄・競争法・M&A・デジタルリスクなど、世界の執行の傾向、法規制の動向をリアルタイムにウォッチできます。
- 元規制官や元独禁法弁護士などの法務エキスパートを含む120名の記者と編集スタッフが所属しており、毎日250本以上のニュース記事が更新されています。
- 速報記事から、詳細分析、政府声明、プレスサマリーまでが網羅されているので、タイムリーに情報を取得することが可能です。
- ニューヨーク、サンパウロ、ロンドン、ブリュッセル、ジュネーブ、メルボルン、ソウル、香港、東京、北京、上海、サンフランシスコ、ワシントン DCの世界13拠点から、近隣エリアの最新情報がレポートされます。これによって、海外の重要案件を素早く取得できるメリットがあります。
- 現地言語でのみ発行されているプレスリリースや声明についても、サマリーを英訳し掲載されているので、情報がいち早く理解することが可能です。
まとめ

シャープ株式会社のように、自社の法務体制を充実させ同時に有機的に機能させることが、グローバル企業が世界市場で成功するための重要な使命といってよいでしょう。シャープ株式会社の法務部門が活用しているMLexについての詳細な資料については、レクシスネクシス・ジャパンのウェブサイトよりお気軽にお問い合わせください。
関連情報 (MLexの記事はすべて英文です)