アジア法務の思考回路「アジア新興国における贈収賄リスクとその対応」

10 December 2021 09:00

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地理的に近いという条件もあって、アジア新興国を市場とする日本のグローバル企業は今後も増えていくことでしょう。しかしながら、アジア新興国とビジネスを展開していく上でクリアすべき課題がいくつかあります。その中のひとつに「贈収賄リスク」があることを企業の法務部の責任者は強く認識しておかねばなりません。現実には、「本社法務部社員」「現地駐在員」「現地従業員」の三者間でそれぞれの立場が異なることによって齟齬が生じ、それが次第に大きくなることで、贈収賄リスクが深刻な事態にまで発展してしまうことが問題化してきています。

レクシスネクシス・ジャパンでは「アジア法務の思考回路」シリーズにて、この問題を取り上げた『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』と題するホワイトペーパーを刊行しました。著者は「AsiaWise 法律事務所」の久保光太郎代表弁護士と、同事務所所属の古賀遼弁護士です。お二方とも諸外国との贈収賄問題に詳しく数々の実績がある同分野のエキスパートです。

Ⅰ.アジアにおける贈収賄の現状

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外国とのビジネスを成功させる上で大切なのは、当該地のビジネス界での現状を深く知っておくことです。『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』では、アジア新興国で現在、ビジネス上の贈収賄のリスクがどの程度あるのか、という点について第1章で詳しく解説されています。

1.腐敗認識指数

「腐敗のない世界の実現」を目指す世界規模のNGOとして知られる「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」は「腐敗認識指数」という数値を毎年公表しています。これは、各国および各地域での腐敗レベルを数値化して表したものです。『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』では、アジア各国での腐敗がどれほどの状況なのか、TIによる腐敗認識指数(2019年度版)をもとにしたアジア13カ国の実態を図表にして紹介しています。なお、2021年1月には2020年度版の腐敗認識指数が公表されていますので、最新の動向を確認することが必要です。

地図と一覧表でまとめられた図表なので各国の現状がすぐに把握できると同時に、各国と各地域の実情についても解説が施されており、法務部担当者にとって役立つ内容といえるでしょう。

2 .各国の法制度

アジアビジネスでの贈収賄リスク回避のためには、アジア各国が贈収賄に対してどのような法制度をとっているのかを熟知しておく必要があるでしょう。『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』には、インドネシア、タイ、インド、シンガポール、中国、マレーシアのアジア主要6カ国における贈収賄に関する法制度の特徴が図表にて紹介されています。

各国ごとに異なる法制度の特徴があり、アジア各国が贈収賄に対してどのような認識のもとに法規制を敷いているのか、日本の法制度と比較して検証する際に役立つ興味深い内容です。

Ⅱ.ケーススタディの検討

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アジア新興国でのビジネスでは、どのような状況下で贈収賄が起きるのか、グローバル企業本社では事前に様々なケースを想定しておくことが求められるでしょう。第2章では、いくつかの代表的なケースを想定して問題提起されています。

1.贈賄行為に対する適用法令

この項目では、各国で起きる贈賄行為が、当該国のどの法令に適用されるのか、ひとつのケーススタディを提示し、その内容について詳しく解説されています。

CASE STUDY 1

「CASE STUDY1」は、シンガポールの現地駐在員と現地従業員(シンガポール人)が、カンボジアで同国の公務員に賄賂を渡していたというケースを想定しています。これは、アジアでの二国間にまたがる贈賄事件であり、どちらの国の法律に準拠すべきかなど日本本社サイドとしての対応が難しいケースについての解説が詳細に施されています。

2.ファシリテーション・ペイメント

一部のアジアの国や地域には「ファシリテーション・ペイメント」という習慣があります。日本では考えられない「行政のチップサービス制度」ともいえる慣習ですが、当該国内では半ば常識化しているファシリテーション・ペイメントにおける 事例が「CASE STUDY2」として提起されています。なお、経済産業省による「外国公務員贈賄防止指針」 においては、令和3年5月の改訂により、スモール・ファシリテーション・ペイメントを原則禁止とする旨社内規定に明記することが望ましい旨の記載が追加される等されていますので、最新の指針に沿った対応が必要となります。

CASE STUDY 2

アジア某国で、外国人登録のために同国の役所を訪れた日本人駐在員が遭遇したケース。役所では手続きをする市民で長蛇の列。そこで現地の窓口係員から書類と同時に慣例となっている少額の賄賂を勧められたというケースが紹介されています。

3.外国公務員に対する贈答

アジア各国には、日本とは異なる習慣の国が多くあり、国の法体系も国家や地域の慣習が反映されているパターンが見られます。公務員への贈賄については、法律上、参考にしうる金額の基準が 設定されている国もあり、日本企業がアジア諸国の贈賄リスクに対応するには、それらの法律を確認しておくことも必要です。ここでは、アジアでの外国公務員に対する贈答における対応をケーススタディとして紹介し、その内容について解説されています。

CASE STUDY 3

アジアの国の中には、日本のお中元やお歳暮のように季節ごとに知人に贈り物をする風習があり、これを公務員に対して行うことは贈賄にあたるのかという事例が「CASE STUDY3」として紹介されています。昔から長く続く国々の習慣と、贈賄という社会的な問題の関わりについての解説が現地での対応の参考になることでしょう。

4.国営企業の現地視察に伴う会食・観光

アジアに進出した日本の大手グローバル企業が、現地の国営企業と契約し取引を始めるケースもあります。その際に、当該国の国営企業の幹部への接待がどこまで許容され、どこからが贈賄にあたるのか、この問題についてケーススタディとして紹介しています。

CASE STUDY 4

アジア某国の国営企業との取引が成立し、同企業の幹部を「視察」の名目で日本に招待したケース。企業にとっては大切なお客様となる幹部へのおもてなしとして行う「会食」や「観光」がどの程度であれば許され、どこからが贈賄となるのかが大きな問題点です。ここでは「CASE STUDY4」として、この問題についての解説を行うとともに、経済産業省の策定した「外国公務員贈賄防止指針」にある「営業上の不正の利益」を得るための支払いには該当しない可能性がある具体的な行為についても言及されています。

Ⅲ.贈収賄リスクへの対応策

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日本の経済産業省は「外国公務員贈賄防止指針」という規定の中で日本企業が外国公務員を接待する際のガイドラインを制定しています。『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』の第3章では、経済産業省が制定した同指針の6項目の内容紹介と解説が記述されており、日本のグローバル企業への贈収賄リスク対策として有益な論考です。なお、前述の通り、当該指針は令和3年5月に改訂されていますので、注意が必要です。

また、本社法務部が問題点を把握するために必要な項目の「見える化」やデータテクノロジーの利用した不正正検知システムの導入などについても言及されています。

まとめ

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日本のグローバル企業がアジア新興国とのビジネスを円滑化するために、当該国の要人や政府関係者、公務員などと接する機会は多くあります。贈賄リスクを回避するためには、外国の役人などとの接触を一切絶つことができればよいのでしょうが、それは現実的ではありません。また、現地駐在員が当該国の公務員から賄賂を要求されて窮地に立たされるケースもあることでしょう。肝心な点は、日本企業が外国との取引の際に生じる「贈収賄リスク」に対して、多くの事例を参考に明確なガイドラインを制定し、万一の場合の対処法を明確化することと、それを社員に徹底して教育しておくことです。企業の法務部担当者は、特に多くの誘惑が潜んでいるといわれるアジア新興国とのビジネスでは、贈賄リスクの防御策を講じておく必要があるでしょう。

「アジア法務の思考回路」シリーズでは、今回紹介した『アジア新興国における贈収賄リスクとその対応』の回において、これらの問題について、その発生要因からケーススタディ、対応策までを要領よく網羅し詳細な解説を施しています。インターネットで手軽にダウンロードできるPDF版として刊行された同書を、この機会にぜひご一読され、貴社のコンプライアンス確立のための一助としてください。

注釈:「【アジア法務の思考回路】アジア新興国における贈収賄リスクとその対応 はLexisNexisビジネスロー・ジャーナル2020年11月号に掲載された連載記事です。解説の内容は掲載時点の情報です。

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