【インタビュー】「プロ経営者」から見た、日本企業の法務の実態と新しい時代の企業法務の考え方

29 Jun 2021 9:00 am

世界的に見ても人口減少が著しく、国内市場が縮小し続けている日本。そのような状況下で、海外市場に活路を求める日本企業が増えています。海外進出する企業にとって、非常に重要なのが“法務”です。グローバル時代で生き残るために、日本企業に必要な法務とは何か? そのヒントを、外資系企業や日本の大企業での豊富な経営経験を持つアース製薬社外取締役のハロルド・ジョージ・メイ氏にお聞きしました。欧米企業と比較した日本企業の法務の特徴や弱点、経営者・企業が行うべきこと、「プロ経営者」と法務・コンプライアンス部門との関係性づくりなど、ご自身の経験を踏まえてお話ししてくださいました。

(インタビュアー/レクシスネクシス・ジャパン株式会社 マーケティング部 ダイレクター 松田 雅仁)

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ハロルド・ジョージ・メイ(Harold George Meij)

1963年、オランダ生まれ。オランダ人。プロ経営者。アース製薬社外取締役、アリナミン製薬社外取締役、パナソニック顧問、サンリオ顧問。ニューヨーク大学修士課程修了。ハイネケン・ジャパン、日本リ-バ、サンスタ-、日本コカ・コーラ副社長を経て、タカラトミ-代表取締役社長、新日本プロレスリング代表取締役社長兼CEOを歴任。経営手腕が話題となりマスメディアに多数出演し、第45回経済界大賞(2019年)ではグローバル賞を受賞。日本語、英語、オランダ語など6カ国語を話す。著書に『百戦錬磨 セルリアンブルーのプロ経営者』。

日本企業の法務の“弱点”とは?

――メイさんは、いくつもの欧米企業の日本法人と、日本企業の経営をご経験されていらっしゃいます。両者の法務機能の違いには、どのようなものがありますか?

私はこれまで、ハイネケンジャパンと日本リーバ、日本コカ・コーラという外資系企業3社と、サンスター、タカラトミー、新日本プロレスの日本企業3社の経営に関わってきました。私の実務経験に基づいて言えば、外資系企業にも日本企業にもそれぞれ良い部分・悪い部分があって、考え方や問題解決方法がまったく異なると感じています。

特に大きな差を感じる点は、三つあります。「企業における法務の重要性」、「法務に対する姿勢そのもの」、そして「投資」について、日本企業は外資系企業よりも弱いと思います。

――日本企業の法務の特徴は、どのようなところだと思われますか?

日本には日本的なビジネスのやり方があって、たとえば“阿吽(あうん)の呼吸”が代表的でしょう。日本のビジネス、特に歴史的に“契約”を好まない日本社会のなかでは、阿吽の呼吸が非常に有効です。あいまいな言い回しでも「私が言いたいことはわかるでしょう?」「すべて言わなくてもわかります」というコミュニケーションが、日本の素晴らしさの一つだと思いますが、海外にはそのような発想や歴史がありません。

ですから、日本企業が海外に進出する際には、「日本独特の方法は通用しない」ということを理解する必要があります。

――今後ますます、多くの日本企業が海外に進出していくのではないかと思います。どのようなことに、気をつけるべきでしょうか。

そうですね。日本国内の消費者人口の減少や国内市場の縮小によって、「進出せざるを得ない」というのが現状です。自社商品の輸出や、現地での法人・支店の開設など、さまざまな形で海外市場に進出しなければいけないという難しい局面を迎えていると言えます。海外に打って出るということは、「相手の土俵で相撲を取らないといけない」ということです。その土俵の上では、阿吽の呼吸や信用・信頼というものは通用せず、「法務が非常に重視される契約社会」だという考え方が海外でのビジネスの基本として大切になります。

そのため、企業自身が自社の法務の重要性を見直す必要がありますし、法務に対する姿勢も変えなければいけないでしょう。そして、法務に対する投資も変えていかなければいけません。

法務に投資するための三つのポイント

――日本企業の経営者が法務に関する投資を行う際、意思決定をするうえでどのような観点が必要でしょうか。

三つのポイントが挙げられます。一つ目は、最も大切な「ひと」です。法務部スタッフの人数ですね。企業内弁護士だけではなく、法務部に必要な考え方や論理を持っているべき人材への投資が重要になります。

二つ目が、「時間」です。法務に関わるスタッフがたくさんいても、個々の経験値を上げなければ効果的ではありません。そのため、経営陣や法務部員をはじめ、契約書に関わるブランドマネジャー、製造部門の責任者などが、お互いに議論・対話する時間を増やすことが必要です。「こういうことを契約書に入れるべきではないのか」「この権利を主張すべきではないか」「契約違反の場合、損害賠償をすべきか」といったことを話し合うための時間の重要性を認識すべきでしょう。

そして、三つ目は「従業員全員のトレーニング」への投資です。経営者や一部の社員だけが法務知識を増やせても、十分とは言えません。企業法務の大切さや、「法務部門は、自社のなかでこんなに重要な役割を果たしているのだ」ということを理解するためにも、従業員全員に対する定期的なトレーニングは不可欠です。むずかしい内容ではなく、法務に対する意識を高めるためのトレーニングで大丈夫だと思います。

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社 マーケティング部 ダイレクター 松田雅仁

外資系ITベンダーにてテクニカルサポートエンジニアからテクニカルマーケティングを経て、コンサルティングファームにてマーケティングリサーチ、マーケティング戦略立案、IT統制などに従事。その後、外資IT企業アジアパシフィック地域チームで、サービス企画やソフトウェアのプロダクトマーケティングに従事。国内大手通信系企業で経営管理・企画責任者を務めた後、現職。

マーケティングと法務の“微妙な関係性”

――企業がマーケティングを行ううえで、マーケティング部門と法務・コンプライアンス部門との間に“微妙な関係性”が生じるケースもあると思います。そのような場合、どうビジネスを進めていけばよいですか?

これは、結構複雑な問題ですね。まず大前提として、すべての企業活動において、法律は必ず守らなければいけません。しかし、その一方で、マーケティングには「新しいものを試さないといけない」という側面もあります。競合企業に勝つためには、いままでのやり方ではなく、新しい考え方や戦略、テストマーケティング、クリエイティブなどで「攻める」ことも求められます。その際、いままで想定されていなかったような新しい領域に入っていく場合もあるでしょう。

そうした未開拓の領域には、関連する法律や規制はなく、「どこまで許されて、どこからは駄目なのか」ということが非常にグレーです。マーケターがまったく新しいことをやってみたいと考えても、それが法務的にOKなのかどうか、社内の誰も答えられないでしょう。ですから、企業にとって、実務を行うマーケティング部門と、その実施判断を行う経営陣や法務部・コンプライアンス門との、“ブレーキとアクセルのバランス”が非常に大事になってきます。

――そこでも、投資の一つである「時間」をかけて議論することが重要になりますね。

その通りです。いま、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌という広告メディアの「マスコミ四媒体」に対して、デジタル媒体も同規模の市場に拡大してきています。四媒体については、歴史が長いのでさまざまな法律や規制がありますが、デジタル媒体については未整備です。

だからこそ、「自社として、どこまでクリエイティブに、あるいはアグレッシブにやっていいのか」ということを議論する時間を設けなければいけません。

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「プロ経営者」が企業法務にもたらすメリット

――メイさんは、いわゆる「プロ経営者」でいらっしゃいます。社外から経営者を迎え入れた企業がより良い会社を目指すには、法務・コンプライアンス部門はどのように経営者と協業していけばよいとお考えですか。

自分で言うのも変ですが、プロ経営者というものには、良いところも悪いところもあります。良いところとして、「その企業や業界、市場のことを詳しく知らないからこそ、客観的に物事を見られる」という点があると思います。つまり、その業界では駄目だとされていることでも、プロ経営者から見れば「どうして駄目?」「大丈夫では?」という客観的な視点を経営に持ち込むことができるのです。逆に、業界的には大丈夫でも「いや、普通に考えれば駄目でしょう」という意見をプロ経営者から出すこともできます。このようなニュートラルな目線は、非常にプラス要因だと思っています。

そして、もう一つの大きなプラス要因として、ほかの企業や業界での経験を自社経営に取り入れられる点が挙げられます。経営手法は企業によって異なりますが、参考事例として、外部の知見や情報などを共有できることもメリットでしょう。

法務・コンプライアンス部門は、「このようなメリットを理解し、有効活用していこう」という考え方を持つとよいのではないでしょうか。

自社の常識をリセットするチャンスに

――プロ経営者としては、どのような法務・コンプライアンス部門側からのアプローチがあればビジネスを進めやすいですか?

私もいままで何度も経験したことですが、たとえば薬機法一つとっても、企業は法律に書かれている内容以上に、その法律に抵触しないように自社の活動を厳しく制限している場合が非常に多いのです。広告やプロモーションなどで「これは表記できない」という法律があったとしても、それよりもさらに厳しいハードルを自社に課している企業も少なくありません。

もちろん、それは間違っているわけではありませんが、外部から来た人間にとっては「こんなにハードルを上げなくてもいいのでは?」と感じるケースもたくさんあります。

このような第三者的視点が自社内に持ち込まれるということは、その企業や業界に長くいる人にとっては“当然の常識”をリセットできるチャンスだと思います。ですから、そういったことについても「一緒に議論しよう」という関係性が構築できるといいですね。

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