日本企業の国際競争力アップセミナー / 0422セミナーレポート 0920午前の部セミナーレポート / 0920午後の部セミナーレポート

日本企業を強くする『法務』とは?
国際競争力を高めるために、企業の法務機能のあるべき姿

2019年4月、「日本企業の国際競争力アップセミナー 『法務』が、日本企業を強くする。」と題されたセミナーが東京・六本木にて開催された(レクシスネクシス・ジャパン株式会社主催)。

経済産業省による「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下、研究会)」の報告書が2018年4月に公表され、これからの新たな時代を勝ち抜くための「日本企業に求められる戦略的な法務機能」が耳目を集めている。本セミナーでは、経済産業省、法曹界、経営コンサルティング業界における企業法務の最前線を知る各界の第一人者が解説・議論を行った。

〔登壇者プロフィール・登壇順〕

北島洋平 氏 経済産業省 経済産業政策局 競争環境整備室長補佐

名取勝也 氏 名取法律事務所 代表弁護士

遠藤 功 氏 株式会社ローランド・ベルガー会長。

なぜ、いま、法務機能の強化が必要なのか?

ビジネスのグローバル化、国内外の法規制の変化、テクノロジーの進化によるIT化の加速などによって、経営を取り巻く環境は大きな転換期を迎え、日本企業が直面する法的環境やリーガルリスクは従前以上に多様化・複雑化している。

今後さらなる競争激化も予測されるなか、競争に打ち勝つためには、より広範な視点からリーガルリスクを正しく把握・評価・判断することが肝要になる。また、法やルールに対する解釈や視点を変えることで新しい市場獲得につなげるなど、リーガルリスクを“チャンス”に変えていく戦略的な法務機能も不可欠といえる。

経営と法務が一体となった、戦略的経営を実現するために

民法改正などに携わり、在り方研究会の立ち上げから参画している経済産業省の北島洋平氏は、「日本企業が国際競争力を高めるための条件とは?」というテーマで講演を行った。

「当研究会の分析では、法務機能強化が求められる背景に『コンプライアンス』『グローバル』『イノベーション』という3つの要因による経営環境の大きな変化があると考えています。その変化に伴うリーガルリスクの多様化・複雑化に企業が対応するために、『経営』と『法務』が一体となった戦略的経営の実現が必要です」

そして、これからの日本企業に求められる2つの法務機能を挙げた。

「1つ目は、企業価値を守る観点から、法的リスク管理のために経営層や事業部門の意思決定に関与する“企業のガーディアン”としての守備的な機能。2つ目は、企業価値を最大化する観点から、事業や業務遂行などを適正、円滑、戦略的かつ効率的に実施できるように法的支援を行う機能です。つまり、法務部門は、企業価値向上のための“ナビゲーター”役であるべきだといえます」

さらに、法務機能強化に向けた具体的な取り組み例も紹介。

「経営層や事業部門が『法務は単なるコスト部門』という認識を変え、『法務機能を有効活用する』という発想に転換するよう働きかけることが必要です。また、ジェネラル・カウンセルの設置など、組織とオペレーションの整備や、教育・採用といった人材に対する投資も大切です」

日本企業の法務が抱える課題と、社内で実践すべき解決策

続いて、研究会の座長を務める名取勝也弁護士が登壇。外資系企業4社やファーストリテイリング社での企業内弁護士経験も踏まえて、法律家の立場から見た企業法務の課題を指摘した。

「米国系グローバル企業と比較すると、日本企業の法務は『自分たちで決めない(決められない)』、『判断が遅い』、『目的実現のために闘わない』などの問題が見受けられます。しかし、それらは、日本企業の法務部門の方々の知識や情報量、経験、能力に起因するわけではありません。意識や姿勢、戦略的分析の手法、企業全体や経営陣の固定観念などによる制約が原因なのではないかと私は考えています」

多くの問題を抱えている日本企業の法務はどう変わるべきなのか。

「まず、法務部門の機能・価値を定義付けする必要があります。たとえば、私は、法務は『企業が健全で永続的な発展をするための経営判断・行動を支援する専門機能』だと定義しています。そして、法務の機能・価値を発揮するためには2つのポイントがあります。1つ目は、戦略的提言を行う姿勢で、私は『SIPアプローチ』と呼んでいます。『Sensitivity(状況・利害関係などの把握)』、『Informed decision(十分な情報・知見)』、『Proactive(能動的・積極的な関与)』による法務の実現です。2つ目は経営側の意識変革で、そのための働きかけなどを行う重要な役割として、ジェネラル・カウンセルなどが経営陣に入ることも重要です」

コンサルタント視点で見た、これからの法務に求められるもの

次に登壇した経営コンサルタントの遠藤功氏は、企業経営に関わるなかで法務の重要性を実感していると語った。

「『いかにグローバル競争で勝ち残っていくか』をコンサルティングするうえで、今後は法務がいままで以上に大事な役割を果たすだろうと感じています。たとえば、私が社外役員を務めるSOMPOホールディングスは、“トランスフォーメーション(質的進化)”を目標に掲げ、保険ビジネスに留まらない『安心・安全・健康のテーマパーク』を目指しています。そして、新領域進出に伴うリーガルリスクへの対応や海外企業の大型買収などに不可欠な法務機能を、経営の一部に組み込んでいます。つまり、企業が“変わる”ためには、経営をサポートできる法務が必要なのです」

さらに、国際競争を勝ち抜くために、日本企業の法務のあるべき姿を提言した。

「新しい時代で生き残るために大切なことは、数十年後に自分たちがありたい姿=『ビジョン』と、それを実現するための『競争戦略』と、そして実行する『現場』について考え直すことです。これら3点を再考するために、法務の存在は欠かせません。さらに、経営上で重要な『創造』と『代謝』を行う際にも、M&Aや事業売却などに関する法務アドバイスはさらに重要になっていくはずです。そのような視点で考えると、法務というのは企業の“戦略そのもの”だと私は考えます。経営の中心に法務が位置付けられることが、これからの日本企業に求められるでしょう」

本当に、日本企業は強くなれるのか?

最後に、登壇者3名が「『法務』が、日本企業を強くする。」という本セミナーのテーマについてパネルディスカッションを行った。

名取弁護士

「遠藤さんがおっしゃられた通り、法務は戦略だと思います。そして、SIPアプローチで言う『Sensitivity』、つまり、個人間や部門間での利害関係を踏まえたベストソリューションを探るための法務分析を行わないと、本当の意味の戦略は生まれないと感じています。社内の混沌した状況を理解して戦略的な助言や意思決定をサポートできるのは、企業内にいる法務の方々にほかならないと思います」

北島氏

「研究会の活動を通じてさまざまな企業の法務部の方とお話をして、法律の知識や過去の判例よりも、自社のビジネスを理解して、『目の前の事案が自社のビジネスにとって良いことなのかどうか』と考えるリーガルマインドがもっとも大切なのだろうと感じています。そして、自分の専門性である法律を一つの“ツール”として活かして、自社の目的を実現する役割が期待されていると思います」

遠藤氏

「私は、企業の価値向上にとって法務に必要なのは“引き出しの多さ”に尽きると感じています。さまざまな経験をするために、たとえば法務部門の若い人材が取締役会議に出れば、生きた教材を目の当たりにしてビジネス理解も高まり、能動的にアドバイスできる引き出しを日常的に増やせます。そのためにも、法務の位置付けを社内で高めて、若い法務部員も“生きた企業法務”を学び、体感できる場所をつくることが、企業を強くすることにつながっていくと思います」

平成から令和へ、そしてその先の未来へとつながる新たな時代をサバイバルするために、法務機能を有効活用できていない日本企業にとって、警鐘を鳴らすとともに、多くの実践的教訓に満ちたセミナーだった。

 

 

日本企業の国際競争力アップセミナー
経営に深く関与する、「攻め」と「守り」を実現する法務機能

2019年9月20日(金)10:00-16:30 会場:六本木アカデミーヒルズ タワーホール

9月20日 午前の部セミナーレポート


午前の部のテーマは、経済産業省による《国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下、研究会)》の報告書が2018年4月に公表された後、「実装」と「育成」の2つのワーキンググループ(以下、WG)で議論された「日本企業に求められる法務機能を実現するための方向性」について。経済産業省や法曹界、先進的取り組みを行う企業の法務責任者ら、WGに参加した各界の第一人者が一堂に会し、「攻め」の法務機能を中心に、インフラ整備と人事制度の観点から報告・議論を繰り広げた。

9月20日 午後の部セミナーレポート

午後の部では、2018年4月に経済産業省が公表した《国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下、研究会)》の報告書で提示された「日本企業に求められる戦略的な法務機能」の一つである「守り」の機能に関連する“贈賄防止”にフォーカス。贈賄リスクから日本企業を守るために第一線で活躍する、経済産業省知的財産政策室長、弁護士、企業の法務責任者らが、贈賄防止を巡る現状や企業に求められる取り組みなどを解説した。