日本企業の国際競争力アップセミナー / 0920午後の部セミナーレポート 0920午前の部セミナーレポート / 0422セミナーレポート

不正・腐敗行為によるリスクを回避するためには?
贈賄防止法を巡る現状と、日本企業の取り組み

「日本企業の国際競争力アップセミナー 経営に深く関与する、『攻め』と『守り』を実現する法務機能」と題されたセミナー、午後の部では、2018年4月に経済産業省が公表した《国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下、研究会)》の報告書で提示された「日本企業に求められる戦略的な法務機能」の一つである「守り」の機能に関連する“贈賄防止”にフォーカス。贈賄リスクから日本企業を守るために第一線で活躍する、経済産業省知的財産政策室長、弁護士、企業の法務責任者らが、贈賄防止を巡る現状や企業に求められる取り組みなどを解説した。

企業の存続にも影響を与える「贈賄行為」

グローバルビジネスを展開する日本企業にとって、いま最も関心が高いコンプライアンス・テーマの一つが“贈賄防止”だろう。国際競争力を高めるための法務機能の強化に努める一方で、どのように贈賄防止に取り組めばよいかと頭を悩ませている企業の法務担当者や経営層は多い。米国の外国腐敗行為防止法(以下、FCPA)や日本の不正競争防止法をはじめ、世界的に不正・腐敗行為に対する法規制や当局の対応が厳しくなるなか、非常に大きなリスクを孕む贈賄を自社内及びグループ内から一掃することは、企業自体の存続にも関わる重要な経営課題になっている。

 

〔登壇者プロフィール・登壇順〕

渡邊 佳奈子 氏

経済産業省 経済産業政策局
知的財産政策室長


1998年経済産業省入省。経済産業政策局産業組織課(LLP法制定)、商務情報政策局コンテンツ産業課、通商政策局アジア大洋州課(アセアン諸国担当)、内閣府知的財産戦略推進事務局等を経て2018年7月より現職。

望月 信孝 氏

三井物産株式会社 法務部
機械・インフラ法務室長


1998年 三井物産株式会社入社。米州・アジア・国内関連のビジネス法務・紛争全般、株主総会・取締役会等ガバナンス関連全般を中心に、入社以来一貫して同社法務部門を歩む。現在は、機械・インフラセグメント関連の法務全般を担当するとともに、贈賄規制対応に関する全社横断的な取り組みの企画立案・実行を担当。1998年東京大学法学部卒業、2007年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2008年ニューヨーク州弁護士登録。

断固として、贈賄要求は拒絶すべき

経済産業省知的財産政策室長の渡邊佳奈子氏は、外国公務員贈賄罪の概要を中心に講演を行った。

「日本人が外国公務員等に贈賄を行った場合、不正競争防止法の適用を受けます。違反者に対して5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科されるだけでなく、法人両罰として企業にも3億円以下の罰金が科される可能性があるのが特徴です」
実際の適用事例を紹介するとともに、海外の制度とも比較。
「米国のFCPAや英国の贈収賄禁止法(UKBA)などは適用範囲が広く、過去にFCPA違犯で日本企業も非常に高額な罰金を科せられています。『少しくらいは大丈夫だろう』と行ったことが巨額の制裁金につながりますし、国際的に贈賄に対する厳しさは非常に増していると認識していただければと思います」
「断固として、贈賄要求は拒絶しましょう」と警鐘を鳴らした渡邊氏。具体的に、日本企業はどのようなことに取り組めばよいのだろうか。

「贈賄防止体制の構築や運用のために必要な観点は、3つあります。1つ目は、全従業員に対する『経営トップの姿勢・メッセージ』です。2つ目が、『リスクベース・アプローチ』。贈賄リスクが高い事業部門・拠点や業務行為を特定して、高リスク行為に対する承認ルールの制定・実施、従業員教育、内部監査を重点的に実施することが重要です。3つ目が、『子会社における対応』です。」

「子会社の贈賄行為は、親会社のレピテーションリスクや共犯としての訴追につながる可能性があるため、親会社の積極的関与と適切な対応が必要です。
さらに、企業が目標とすべき防止体制の在り方にも言及。
「『基本方針の策定・公表』や『社内規程の策定』、『内部監査』などが求められます。もちろん、有事における対応も考えておかなければいけません」

最後に、困ったときの相談先として、経済産業省の外国公務員贈賄防止総合窓口や、在外公館に外国公務員贈賄防止担当官が在駐していることを紹介した。

 

司法取引の今後と、海外現地の本音

続いて登壇した結城大輔弁護士は、グローバルビジネスにおける贈賄リスクの事例を紹介した。

「2019年9月現在、米国FCPA違反の罰金額トップ10のうち、9社が米国以外の企業です。海外企業の摘発が活発化するなか、日本企業も『アジアでの大型プロジェクト推進のためにやむを得ずリベートを支払った』と日本の不正競争防止法違反で摘発され、会社に罰金約9000万円が科され、元役員3名に執行猶予付きの有罪判決が下されています」
このような経営者不正のケースから得られる教訓として、結城弁護士は次の2点を挙げた。

「まず、『取締役会の活性化と、社外取締役・監査役などによる監督』です。経営層の暴走にストップをかけられる存在が重要だといえます。そして、2点目が『経営層などから独立した、社外取締役・監査役等への情報ルート』の整備です。ガバナンスやコンプライアンスの体制を整備していても、経営層・上層部が不正の隠蔽や虚偽報告を行うこともあるためです」

さらに、日本での司法取引第1号となった事案を例に、司法取引に関する見解を示した。

「このケースの場合、徹底した社内調査を行い、捜査に協力して司法取引に合意した会社は不起訴になりました。一方で、元役員ら3名に執行猶予付き判決が出ています(1名は控訴中)。このような司法取引による協力型の捜査は、世界的なトレンドになっていますが、コンプライアンスに取り組む日本企業としても、積極的に捜査当局に協力して司法取引に応じ、違犯した従業員の責任を追及することが増えると思われます。会社が従業員に対して、『会社のためにやったのだから……』と庇う時代はもう終わりました」

しかし、海外の現地では「贈賄はだめだとわかっていても、要求されるから仕方がない」という声も多いと指摘。

「そのような現実があるなかで、まず企業が取り組むべきことは、ルールやポリシーの明確化と社内外への発信です。さらに、内部通報を本気で活性化させて、コンプライアンスを含めた企業風土を変えることが肝要です。また、現地では、『日本企業はコンプライアンスや監査が甘いから、少しくらいの不正は許されるだろう』という考えもあるため、内部監査の徹底は不可欠です」

 

三井物産の実践例に見る、取り組みのヒント

三井物産の機械・インフラ法務室長の望月信孝氏は、自社の贈賄リスク関連の取り組みについて紹介した。

「弊社は、いち早く贈賄防止を重要な経営問題として取り組んできました。2001年にコンプライアンス・プログラムを策定して以来、継続的にさまざまな取り組みを行い、2016年には、特に贈賄防止に対する弊社の取り組みについては、ステークホルダーの皆様からお問合せを頂いていることを踏まえ、贈賄防止に向けた基本的な考え方を『三井物産贈賄防止指針』として定め、公表しました」

そして、日本企業が贈賄防止の取り組みを行う際のヒントを紹介。

「贈賄・不正防止に関して、守るべきことは『公務員等に賄賂を払わない』ということなので、ある意味明確だといえます。なので、まず行うべきことは、賄賂を起こさない仕組みづくりとその運用です。そして、経営陣や現場の社員に、贈賄防止の重要性を“自分事”として認識・対応してもらうことがすべてのベースになります」

実効的な取り組みを行うためには贈賄防止をより大きな文脈や観点から捉えることが重要であるとし、3つのポイントを挙げた。

「1つ目は、『贈賄防止を、コンプライアンスの一部として位置づける』こと。2つ目が『経営の重要課題(マテリアリティ)としてのコンプライアンス』で、3つ目が『企業文化としてのインテグリティ(誠実さ・高潔さ)』です。インテグリティやコンプライアンスが、企業文化やマテリアリティとして、認識され、定着していれば、贈賄に限らず、カルテル、不正会計、データ偽装といった問題や様々なハラスメントが起きない、あるいは起きにくかったり、問題が小さいうちに自浄作用が働きます」

さらに、自社の具体的な取り組みの詳細に触れた。

「経産省の指針でも『経営トップの姿勢・メッセージ』の重要性が説かれていますが、弊社でも『取締役会・経営会議等へのコンプライアンス報告』と、『社長やCCOなどによる、社内へのメッセージ・注意喚起の発信(重要会議・イントラ・ブログなど)』を定期的に行っています。また、本社・グループ会社ともに『内部監査』を都度実施。さらに、顧客や投資家などステークホルダーの皆様への『取り組みの公表』も重要と考え、サスティナビリティレポートや統合報告書、Webサイトなどを通じてコンプライアンスに関する取り組みを開示しています」

 

規程の策定と海外子会社管理に関する解決策例

次に、レクシスネクシス・ジャパンの橋爪マネージャーが、ベンダーの立場から、多くの日本企業が導入している贈収賄防止策のアウトソース事例を紹介。

「海外のコンプライアンス事情を知るためには、適切な情報を適時に入手することが必要です。そのために、世界中の法令・判例や規制などや関連ニュースをおさめた世界最大級の当社の法令データベースを活用していらっしゃる日本企業様は1200社にも上ります。また、そのデータベースをもとに、変更があった部分を自動的に各社の従業員に通知・周知徹底させるプラットフォームや、従業員に関するリスクベース・アプローチ情報、それに基づく教育・研修などを導入される企業様も年々増加しています」

特に、企業の法務のリソース不足に対応する解決策にも耳目が集まっている。

「たとえば、『規程の策定』をご依頼いただくケースが増えています。グローバルなデータベースをもとに、細かな規制のある国や新規進出国向けにカスタマイズを行う機会も増えました。常に世界中の動向をウォッチし、改定に応じた規程の変更・更新なども企業様に代わって行っています」

また、「海外子会社管理のサポート」への要望も多いという。

「当社の海外コンプライアンス情報DBを活用することで、各国の規制や監視当局の動向などの最新情報を本社と子会社が同時にキャッチできます。このようなツールを導入しておけば、当局に対して『効果的なグローバルガバナンスができている』とアピールすることも可能です」

橋爪 整

レクシスネクシス・ジャパン株式会社 シニアセールスマネージャー

日本ヒューレット・パッカード株式会社、トムソン・ロイター・ジャパン株式会社を経て現職。贈収賄防止や独禁法対策、海外子会社管理といった、企業のリスクマネジメント及びコンプライアンス強化に深く従事。

最後に行われた登壇者全員によるパネルディカッションでは、「継続的運用と、その証明が求められる贈収賄防止対策」というテーマで、多くの不正の端緒になる内部通報制度の必要性や、子会社管理における法務以外の内部監査関連人材の活用、経営者の意識改革の重要性などが議論された。

 

企業活動の根幹をも揺るがしかねない、贈賄行為。自社内で防止の取り組みを徹底するだけでなく、取り組みの内容を外部にも開示し、その情報をお互いに活用して各企業が自社の防止策を策定・運用するなど、政府のサポートも含めて“日本企業全体で取り組むべき問題”だと感じたセミナーだった。


9月20日 午前の部セミナーレポート


午前の部のテーマは、経済産業省による《国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会(以下、研究会)》の報告書が2018年4月に公表された後、「実装」と「育成」の2つのワーキンググループ(以下、WG)で議論された「日本企業に求められる法務機能を実現するための方向性」について。経済産業省や法曹界、先進的取り組みを行う企業の法務責任者ら、WGに参加した各界の第一人者が一堂に会し、「攻め」の法務機能を中心に、インフラ整備と人事制度の観点から報告・議論を繰り広げた。

4月22日 セミナーレポート

日本企業の国際競争力アップセミナー『法務』が、日本企業を強くする。

第1回目の国際競争力アップセミナーでは、各界の第一人者をお招きし、「日本企業に求められる戦略的な法務機能とは何か」を、考え議論した。