新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行の中でアメリカ国内の事業活動を再開するに際して、日本企業が知っておくべきこと

 

新型コロナウイルス感染症は、世界中の労働者に重大な影響を与えており、我々の働き方やビジネススタイルにも変化をもたらしている。アメリカの州政府や地方自治体がビジネスに対する制限を緩和または撤廃しつつある中で、アメリカ国内に従業員を有する日本企業は、事業所を再開し、再び従業員を迎え入れることになると考えられる。しかしながら、そのためには解決しなければならない数多くの問題に直面すると考えられる。

従業員が直面している健康および安全上の問題点は、日本とアメリカでそれほど異なるものではない。しかしながら、日本とアメリカの労働法には違いが存在する。そして、今般のような世界規模での公衆衛生および経済の危機の時代においては、このような違いは特に明確になってくる。例えば、伝統的に「生涯雇用」が期待されている日本では、解雇については厳格な制約が課されており、解雇が実施されることはほとんどない。その一方、アメリカ国内で事業を行っている会社の中には、新型コロナウイルス感染症への対応として、従業員の解雇(Layoff)を実施した会社が多い。また、一般的に、日本と比較すると、アメリカの従業員の構成は、多様性に富んでいると考えられる。

そのため、アメリカ国内の従業員を解雇した日本企業が旧従業員の一部を再雇用する場合、特に、アメリカの雇用機会均等法を遵守することに注意する必要がある。このような場合、日本企業は、例えば、各職位の中での年功など、客観的かつ非差別的な基準に基づいて再雇用する旧従業員を選択することにより、連邦法や州法により保護されたクラス(Protected Class)(人種、性別、年齢、性的志向などにより分類される集団)に対する差別的な取扱いが生じないように注意する必要がある。

以下のチェックリストは、アメリカ国内の事業活動の再開や拡大を検討している日本企業やそのアメリカ子会社が今後直面するであろう事項を解説するものであり、検討に際しての取っ掛かりとして有用である。

 

1. 事業所の再開時期を決定する

事業所の再開時期の決定は、難しい判断が求められものであり、政府による規制、安全面での懸念、経済的な影響などのさまざまな事項を考慮する必要がある。多くの州政府や地方自治体は、事業所の再開時期、態様、事業遂行の方法について、さまざまな制限を課してきており、今後も同様の制限を課す可能性が高いと考えられる。これらを踏まえて、安全な労働環境の下で事業所を再開するためには、以下の動向に注意を払うことが望ましい。

  • 州政府や地方地自体による命令
  • 州や地方自治体の衛生部局のガイドライン
  • 疾病予防管理センター(the Centers for Disease Control and Prevention)のガイドライン
  • 労働安全衛生局(the Occupational Safety and Health Administration)のガイドライン
  • 業界団体等が作成・提供する資料
 

2. 誰をどのような立場で再雇用するかを決定する

  • 従前と同じ人数の人員で事業を再開するか、それとも、人員を減らしたうえで再開するかを検討する。
  • 旧従業員の再雇用を1回ですべて行うのか、それとも、複数回に分けて行うのかを検討する。
  • 解雇または自宅待機(Furlough)とした従業員の中に軍人が含まれていないか、含まれている場合には、軍人雇用・再雇用権法(the Uniformed Services Employment and Reemployment Rights Act)に基づいて再雇用の権利を有していないかを確認する。
    • 差別的であるという主張を受けないようにするため、再雇用する従業員を選択する際には、客観的かつ非差別的な基準(例えば、各職位の中での年功など)を用いる。
  • 労働組合が存在する場合、労働協約において解雇や再雇用に関する規定が存在しないかを確認する。
  • 連邦法や州法により保護されたクラスに対する差別的な取扱いが生じないようにするため、再雇用する従業員の構成を確認する。
  • 既存のジョブ・ディスクリプション(職務内容等を記載した書面)を確認したうえで、新型コロナウイルス感染症への対応を理由とする変更を加える必要性がないかを検討する。
  • 従業員に追加的な職責を負わせることや、複数の業務を行うことができるように訓練することを検討する。(例えば、給与保護プログラム(Paycheck Protection Program)に基づく貸付金を受領している場合には、返済免除要件の該当性を検討する)

3. 再雇用した従業員を受け入れる

  • 再雇用する従業員にオファーレターまたは合意書を送付する。
    • オファーの受諾期限を設けるとともに、従業員から返答がない場合には、オファーを受諾しない旨の書面の受領を検討する。
    • オファーを受諾しない場合には失業補償給付の受給を継続する資格の喪失につながり得る旨を伝える。
  • 身元調査も含め、新規の採用手続を完遂する(身元調査は、解雇された従業員については必須である。一方、一時解雇または自宅待機とした従業員については必須ではないものの、推奨される)。
  • 新型コロナウイルス感染症に感染していた従業員、またはその症状を有する応募者については、勤務開始日を遅らせる。また、応募者には直ちに勤務を開始してもらう必要がある場合には、弁護士と相談のうえで、オファーの撤回を検討する。
    • 応募者が新型コロナウイルス感染症の合併症に対する高いリスクを一般的に有していることのみを理由として(例えば、65歳以上であることや、妊娠中であることなど)、一方的に勤務開始日を遅らせたり、オファーを撤回したりしてはならない。
  • 解雇または自宅待機の以前に従業員が受けていた福利厚生を再開する必要があるかを検討する。
    • 例えば、州または地方自治体の法令に基づく未消化の有給病気休暇の日数を維持しなければならない可能性がある(その場合、書面により記録化しなければならない)。
  • 従業員が健康保険、年金制度その他の福利厚生制度に再加入する必要があるか、また、待機期間(加入後の一定の免責期間)の適用があるかを確認する。
    • 制度を詳細に検討するとともに、専門家に相談する。
  • 従業員について、公正労働基準法(the Fair Labor Standards Act)の適用の有無(ExemptまたはNonexempt)が正しく分類されているかを確認するとともに、従業員の給料や福利厚生の内容の調整を検討する。
    • 解雇または自宅待機以前の給料と同額を必ず支払わなければならないものではない(ただし、雇用契約または労働協約により給料の金額が固定されている場合を除く)。
    • 賃金の平等の問題、政府からの給付金や貸付金(給与保護プログラムに基づく貸付金など)に与え得る影響を検討する。
    • 法令に基づいて要求される従業員への通知を実施する。
  • 再雇用するすべての従業員の身元と就労資格を確認する。
    • Form I-9またはSection 3 (Form I-9の“Rehire”欄)を新たに作成する必要があるかを専門家に相談のうえで、再雇用するすべての従業員に対して同一の対応を行う。
    • 非対面の方法による確認を許容する一時的な緩和措置が存在する(ただし、依然として、職場における業務の再開から3日以内に対面で書類を確認することが要求されている)。
    • ビザの問題については、移民法に詳しい専門家に相談する。
  • 連邦、州または地方自治体の法令により掲示が義務付けられている雇用に関するすべての最新のポスターを職場の見やすい場所に掲示するとともに、これらの法令により義務付けられた従業員に対する通知を行う。
    • ファミリー・ファースト・新型コロナウイルス対策法(the Families First Coronavirus Response Act)の適用を受ける場合、同法に関するポスターを掲示しなければならない。
    • 疾病予防管理センターが作成した新型コロナウイルス感染症に関するポスターの掲示も検討する。
  • 新型コロナウイルス感染症に関する政府の最新のガイドラインや新たに制定された法令(ファミリー・ファースト・新型コロナウイルス対策法など)を遵守するために就業規則等を改定する。
    • 労働組合が存在する場合、就業規則等や雇用契約を変更するためには団体交渉が必要になる場合がある.
 

より詳細な情報については、チェックリストの完全版(英語)を参照されたい。

チェックリストの完全版では、上記の1~3に加えて、以下に関する情報を解説している。

☑ 新型コロナウイルス感染症を理由として配慮を要する従業員への対応

☑ 従業員および訪問者に対する新型コロナウイルス感染症のスクリーニング

☑ 新型コロナウイルス感染症が発覚した場合、またはその疑いが認められる場合の対応

☑ 個人防護具(マスクなど)の使用の推奨

☑ 従業員の衛生面の向上

☑ 清潔で衛生的な職場環境の維持

☑ ソーシャルディスタンスの促進

☑ 従業員の健康及び安全面の懸念への対応

☑ 法令に基づく報告義務の遵守

連邦、州及び地方自治体の法令、規制およびガイドラインは、新型コロナウイルス感染症の流行に対応しながら、今後も新たな制定や変更が行われると考えられる。そのため、日本企業は、アメリカ国内での事業活動の再開や拡大を検討する場合や、人事労務に関する意思決定をする場合には、事前にアメリカ法の専門家に相談することが望ましい。

Fox Rothschild LLP

Fox Rothschild LLPは、アメリカ国内に27のオフィスを構え、約950名の弁護士を擁するアメリカ有数の法律事務所です。70を超える幅広いプラクティスエリアの中で、Labor & Employment部門は、効果的なアドバイス、戦略をタイムリーかつ効率よくさまざまな企業(上場会社、スタートアップ、多国籍企業など)に提供し、紛争の予防、そして適切な解決を実現することにより、クライアントから高い評価を得ています。

事務所ホームページ:www.foxrothschild.com

 

翻訳協力

きっかわ法律事務所

きっかわ法律事務所は、1942年の設立以降、企業規模を問わず、多様な業種のクライアントにサービスを提供しています。渉外法務においては、世界中の法律事務所とのネットワークを活かして、アメリカ、東南アジアをはじめとする世界各国への進出・撤退のほか、日常的なビジネス活動についてのアドバイスの提供やサポートを行っています。

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